岡崎里美 著 「自殺への序曲」 光風社書店

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本の目次

以下引用。
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目次

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引用終わり

里美さんの遺書全文

以下引用。9ページ から 16ページ
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 自殺への序曲
 (どういうわけだか、かっこいい題だと思いますよ)

 本当は何だというのでしょう。私はすでに自殺を決意してしまったのです。私の生きていく余地はありあまっています。それをフルに活用できないのは、あたしの意地のなさか、あるいは、中途半端なためなのでしょう。
 あたしが生まれたのは、今から17年前の春でした。名古屋の中の、とあるちいさな病院でした。最初から未熟児のあたしは、たたかなければ泣かなかったといいます。もしかしたら、最初から死んだも同じだったのかもしれないのです。それから17年間たってしまった今、死ぬのにも早すぎるし! 生きていくのにもおそすぎるのかもしれないのです。今まで何をしてきたのか? そしてこれから何をしていこうというのか? 13の時だかれてから、なんにんかの人にふれられてきたあたし。大切なことのようにおもえたSexも、ついに娼婦にもなることが出来なかった。全てのことに、フンギリがつかず、あたしは今になって、自分というものを見失なったようなのです。
 本当のことを書いていくのには、たいへん勇気がいります。あたしには、それだけの勇気があるのでしょうか?
 あたしは昔からずいぶんとわがままだったのです。小学校の時にはろくな思い出がない。あたしはクラスのきらわれものだったように思うし、一緒に帰る人もいなかったように思う。見栄とプライドとが一緒になってたいへんくやしかった。淋しかったようには思わない。あたしは人気者ではなかったし、頭もそんなに良い方ではなかった。他人の物は見ればすぐほしがるし一度か二度、だまってドロボウしたことがある。ばれた時はとてもはずかしかった。呼ばれる時はいつも名前で呼ばれず、たいてい苗字だったと思う。
 それから両親が離婚した。母が分裂病になった。それとこれとはほとんど同時だったし、あたしにはほとんど何が起ったか知らずにすごしていた。それからおやじのこと……。本当をいうと、あのころのことは場面場面でしか覚えていない。父とくらしていた時あたしは母の病気は心ぞう病だと思っていた。夜、とても母に会いたくなって見まいに行くといい、行ってはいけないと、どなられぶたれた日のこと。父の情婦はとてもやさしい人であること。学校の帰りにたいてい甘栗をかってかえったこと。となりの女の子がびっこだったこと。その子と良く石けりをしてあそんだこと……。ほとんど何も考えなかった。考えていたのかもしれないけれど今になってなにも覚えてはいない。
 そうしたある日、学校に母がむかえに来てあたしを川崎のおばの家につれていった。父の所へ帰りたいといって泣いた。こたつにねころがってぽろぽろ泣いたこと。川崎へ行く電車の中から景色をみてとてもきれいだと思ったこと。母がいるからきれいなんだと思ったこと。それから小金井の家へうつった。とてもうれしかったこと。前原の小学校ではたのしかった。みんなあたしのことを知らないから人気をもとうとしていつもニコニコして気げんをとっていた。
 そしてこの家へ来た。もう六年になるのだろうか? はじめてこの家へ来た時たいへん光が目にしみた。そして十三のころたくさんの仲間がいた。みんなあたしのことを呼んでくれた。けれどいつもあたしは中心ではなかった。中心になりたかった。でも別にどうでもよかったのかもしれない。そのころから、あたしは常にいっぱしの女の子だった。もてると思ってたし、実際もてていたんだもの。もてていたいと思っていたし。
 それからせっぱつまって高校をやめた。利益は考えなかった。世間体なんかこれっぽっちも考えなかった。とてもとても必死だった。その前にボンドをやった。あのころはとてもたのしかった。くるしくはあってもつらくはなかった。ヒッピーになろうと思った。必ず家に帰ってきたけど。
 そしてロック・フェス、Mich、まや、ウラ、ボブ、ゆうじ……。とてもいい友達だった。去年は良くあそんだっけ。おもしろかったョ。友達なんかいたるところでできた。けど今年……。まこちゃんがいた。あたしの大好きな人なのだ。まこちゃんはあたしの中のいたいところをきつつきみたいにつついてる。そしてあたしは今、やる気ないことこの上なし。
 本当はいつでもやる気はあるけど、やる気はあっても動かない。けっきょくはあたし自身の問題だと思うし、あたし自身、全てに”こわれてしまった”のかもしれない。楽しいばかりじゃすまなくなってるし。たのしいことばかりではないのだ。あたしの居場をつくらなきゃならないし、あたしには何かをやるだけのやりとうすだけのちからも根本も何にもないときてるし、それに技術もないときてる。あやふやでしかない。あたしにやることが、やれることがあるのだろうか?
 ついにはネコにもなれなかった。めんどくさがりやで、ねむっているのが好きで時間感覚がまるでなくて、立体感がまるでない。その場の状態しかわからない女の子がいったい何をやらかすというのだろう? なんにもしないでわらっているのが好きな子に何ができるというのだろう。変なとこのプライドがたかくて、自己規定がまるでできない子にいったい何ができるんだろう。死ぐらいしかないんじゃないか?
 あたしが死んだらわらって下さい。にげちまった、すわったきりで動かないでガスせんをひねった女の子だって。動こうともしないで、やりだそうともしないで死んじゃった子だって。自分のこと、ひげきのヒロインに見たてて、かってに思いこんで死んじゃったばかな子だって。本当にやりたいこともみつけずに途中で生きることにあきらめちゃった。できない生きることはできないって思いこんじゃった子だって。
 生きることにあきちゃったのかな? きっとめんどーくさくなっちゃったの。生活することに、いろんなこと考えることに、だかれることに、レコード聞くことに、Dobonに行く事に、何かすることに、動くことに。
 娼婦にもなれなかったし、ねこにもなれなかった。水商売用女にもなれなかったし、デザイン学校の生徒にもなれなかった。ただの高校生にもなれなかったし、娘にもなれなかった。詩人にもなれなかった。絵かきにもなろうとしなかった。全部中途半端ですぎちゃった。十七年間と何ヵ月かの生活にばかみたいにつかれちゃった。つかれちゃったと思いこんでる女の子なのです。くしろのトウダイであるちゅうになって白一本あけて死ぬことさえできないんだもの。
 ヒッピーにもイッピーにもなれなかったョ。何かを信じきることもできなかった。何かをうたがいきることもできなかったョ。ゴメンネなんてあやまりゃしません。
 おかあちゃまへ、おねがいです。
 リミのTelephone Memo にのってる人たち全部にかけて(やめた)、Mich(いいだみちこ)にかけて、死んぢゃったっていって下さい。おやじんとこかけてそういって下さい。まこちゃんとこにもかけて下さい。みんなびっくりすると思います。Dobonには突然やめてごめんねっていって下さい。学校の友達は南原ゆきこっていいます。Memoにのってます。おかあちゃま、なんにもできないでごめんね。ああ? ついにあやまっちゃったね。
 リミがずっと前かいて封とうにもいれないでだしてない手紙、全部だして下さい。詩のノートまこちゃんがほしいっていったらあげて下さい。誰もほしがらなかったら全部リミといっしょにもやして下さい。のこったものももやして下さい。Beatlesのレコードはリミといっしょに全部もして下さい。Beatlesに関してのものは全てリミといっしょにもやして下さい。
 こんなばかげたことってないョ。
 リミ本当いうと何となく、全たいにリミは二十歳まで生きられないと思ってたの。自殺をしたいと思ってたのはもう半年ぐらい? 二年ぐらいまえからなの。今はじめてフミキリます。ちゃんと思ったのは、三日前なの、今から死ぬんだってしんじられないョ。どうしようか? ほんとは、もっともっと書くことあるのです。けどもう忘れちゃった。けど自殺未すいなんかやらかしたらどうしようか?
 おやすみなさい。

 7月30日 PM9:00

 まこちゃんへ、おかあちゃまへ

   PS これ、まこちゃんへあげてほしい。
      まこちゃんにあげたいの

自殺できなかったらこわいもんね、本当は。
もしみつかったら見つからないようにやるべきだけど……。
そしたら
あそんだだけだっていうんだ!

注:(岡崎里美遺書自殺への序曲)
注:(彼女がこれをかいたのはAM9:00のはずであり彼女のまちがいである)
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引用終わり。

国立国会図書館 NDL-OPAC での検索結果

以下引用
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国立国会図書館 NDL-OPAC

書誌情報 和図書(1/2件目)
請求記号 GK113-10
タイトル 自殺への序曲
タイトルよみ ジサツ エノ ジョキョク
責任表示 岡崎里美著
出版地 東京
出版者 光風社書店
出版年 1974
形態 263p 肖像 ; 19cm
入手条件・定価 600円
全国書誌番号 73004868
個人著者標目 岡崎, 里美 (1954-) ∥オカザキ,リミ
個人名件名 岡崎, 里美 (1954-) ∥オカザキ,リミ
NDLC GK30-オカザキ,リミ(岡崎里美)
NDC(6) 289.1
本文の言語コード jpn: 日本語
発行形態コード 0101: 図書
出版国コード JP: 日本国
西暦年 1974
校了日 19870109
最終更新 19870109000000
書誌ID 000001213839
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引用終わり。
制作 : RISA-1972